「介護のため、仕事を辞めるしかない…」と、介護離職を選ぶ人が増えています。 家族を大切に思うからこそ、介護を優先したい気持ちはわかりますが、十分な資金が用意できていないと自分自身の老後も不安になってしまいます。退職を決断する前に、「介護休暇」と「介護休業」について正しく知り、働きながら介護を続ける方法をいっしょに考えましょう。介護と仕事の両立に悩むあなたにとって、新しい選択肢の一つになればうれしいです。
看護・介護を理由に離職する人は年間約8万人
令和5年に行われた厚生労働省の雇用動向調査によると、介護・看護を理由に離職した人は約7.3万人。平成12年のデータと比較すると増加幅は約2倍です。年代別にみると50代の女性が最も多く、本人のキャリア、家計にとって大きな痛手となっています。
また、介護をしながら働く人の数も増加傾向にあり、少子高齢化がとまらない現状をふまえると、今後も増え続けることが予想されます。
つまり、「家族の介護や看護で悩んでいるのは、あなただけではない」ということです。
「制度はあるけれど、職場で使いづらい」という声をよく耳にしますが、そもそも制度を正しく理解していない方も多い印象です。
「介護休暇」と「介護休業」の違い

要介護状態の家族がいる場合、「介護休暇」と「介護休業」の利用を検討できます。名前が似ているため混同しがちですが、この2つは使う目的と期間が異なります。
比較項目 | 介護休暇 | 介護休業 |
目的 | 一時的な介護(通院、手続きなど) | 集中的な長期介護(在宅介護など) |
単位 | 1日または半日単位で取得可 | 最大93日(分割取得OK) |
給与 | 原則無給 (※会社によっては有給) | 雇用保険から休業給付金あり (67%相当) |
対象家族 | 要介護状態にある配偶者、親、子、兄弟姉妹など | |
法的根拠 | 育児・介護休業法 | |
※リンク先は厚生労働省のサイトです。詳細を知りたい方はご確認ください。 |
どんなときに使うの?使い分けのタイミング
介護休暇を使うとき
✅親の病院に付き添う日
✅ケアマネジャーとの面談
✅デイサービスの見学・手続き
✅介護保険の申請書類の提出 など
スポットでの対応が必要なときに、半日・1日単位で利用できます。
介護休業を使うとき
✅退院後に在宅介護が必要になった
✅施設探しや入居の準備が必要になった
✅今後の介護体制を整えるために、仕事の調整が必要になった
⇒ 一時的にまとまった期間が必要なときに有効です。
介護休暇と介護休業はいずれも、会社の定める就業規則に明記されています。休暇が認められる日数や、有給・無給の区別について、しっかりチェックしておきましょう。
介護休業給付金ってなに?条件を確認しておこう

介護休業を取得すると、「介護休業給付金」という経済的なサポートを受けることができます。これは雇用保険から支給されるもので、条件を満たせば休業開始から通算93日まで、原則給与の67%相当が支給されます。
支給対象となる人の条件
申請は会社を通じてハローワークに提出します(原則、本人ではなく事業主が申請)。給付金の支給にはタイムラグがあるので、当面の生活費を準備をしておくと安心です。
派遣社員や契約社員の方でも対象になる可能性があります。わからないところがあれば、厚生労働省のHPのQ&A~介護休業給付~をご確認ください。
「制度は知っているけど、手続きが難しそう…」と思ったら、会社の総務や人事担当に相談してみましょう。
仕事を辞める前に、まずやってみてほしいこと

介護のために休む日が増えると「会社の人に申し訳ないな」という気持ちや、「介護をする家族ともっと一緒にいてあげたい」気持ちが強くなります。
でも、あなた自身の気持ちはどうでしょうか。自身のキャリアや、理想の老後に必要な資金をためる機会を失う前に、以下の方法をためしてみてください。
就業規則を確認する
介護は、ある日突然始まることもあります。将来に備えて「介護と両立しやすい働き方」や「職場の制度」をチェックしておきましょう。
✅介護休暇制度の内容はどうなっているか
✅ フレックスタイム制度や時短勤務制度はあるか
✅ テレワーク制度の活用は可能か
✅ 有給休暇はとりやすいか
✅ 介護休業取得実績は社内にあるか
こうした視点で今の職場を見直すことは、将来の自分の安心にもつながります。
「いざという時にどうするか」を、家族やパートナーと話し合っておくことも大切です。
上司や人事に相談する
上司や総務部・人事部へ相談してみましょう。会社としても、働き手が減るのは困ります。あなたが介護と仕事を両立できるよう、離職以外の道をいっしょに考えてくれる相手ができれば、心の負担も少し軽くなるはずです。
カギは「早めの相談」。計画的な取得がしやすくなります。時短勤務やテレワークの制度があれば、あわせて相談したいですね。
ケアマネジャー・地域包括支援センターに相談する
介護は大変です。ひとりで抱えず、専門家を頼ってみましょう。
比較項目 | 地域包括支援センター | ケアマネジャー |
主な役割 | まず最初に相談する“総合相談窓口”。介護で困ったらここへ! | 要介護者の介護サービスプラン作成&入所などのサポートをしてくれる人 |
対象者 | 地域の高齢者全般・家族 | 要介護認定者・要支援認定者 (※要支援は地域包括所属のケアマネが対応) |
サービス例 | 制度説明・介護予防支援 | デイサービス・施設入居や訪問介護などの相談受付。介護サービスプランの検討 |
まずは、地元の「地域包括支援センター」を探して相談してみてください。介護認定を受ける時にも利用する場所です。市や県の制度、地元の任意団体の介護サポートや、民間企業の有料サポートなど、あなたが知らない情報を教えてくれるかもしれません。
また、すでに要介護の認定を受けている場合は、担当ケアマネジャーがついていると思います。介護の方法や、施設入所について相談しましょう。
地域包括支援センターの職員(地域ケアマネ)であれば、要支援に認定されている家族についても相談できます。
民間企業のサポート利用を考える
介護保険制度だけではカバーしきれない部分について、自費サービスを活用する、という選択肢もあります。
✅掃除や洗濯などの家事代行サービス
✅見守り・話し相手の訪問サービス
✅民間の配食サービス など
介護者の負担を軽減してくれる民間サービスは、数多く存在しています。経済的に無理のない範囲でこうしたサービスを取り入れることで、心にも時間にも少しゆとりが生まれるかもしれません。
あなたの人生とキャリアを守るために

家族の介護は、心も時間も体力も使う大きな出来事です。
その一方で、あなた自身の人生やキャリアも、同じくらい大切にしてほしいと願っています。
「もう限界かも…」と感じる前に、ぜひ一度立ち止まって、制度や支援の活用を検討してみて下さい。知っているだけで、選択肢は広がります。
介護と仕事、どちらかをあきらめる時代ではありません。
この記事が、あなたの「働き続ける道」を見つけるきっかけになれば幸いです。介護される人にも、職場にも、よりよい道を探していきましょう。